以前コモチイトゴケ P. tenuirostris との比較を書いている。標本が 4個から 8個へと経験が増えて新たに気付いたことがある。前回はこの 2種の区別が難しそうに思っていたが,今は簡単なつもりになっている。その時混乱していたのは,ケカガミゴケの標本にハイヒバゴケ Hypnum cupressiforme が混じっていたことの影響があるようだ。他でも経験があるが,2種の混合を 1種と思い込むので結果は悲惨である。どこまで行っても出口がない。
Tan & Jia (1999 服部植物研究所報告)の以下の検索表が非常によく当てはまり,採集済の標本がきれいに 2つに別れることがわかった。『無性芽の有無は決め手にはならないし,葉の曲がり方も結構変化がある。かろうじて認識できたのが,葉身細胞の形と大きさの違いだった。』と書いたことの(一部)取消しである。
1. Plant Hypnum-like, leaves strongly falcate-secund, laminal cells oblong-linear;
filamentous propagules rare................P.tenuirostris
1. Plants not Hypnum-like, leaves erect-patent, laminal cells oblong to short
vermiculate; filamentous propagules abundant...........P.yokohamae
今回気付いたよさそうな区別点は,葉の尖り方の違いである。
P.tenuirostris...............葉先が細く長く尖り,先端は鋭い針状。先端部が大きく鎌曲りする。先端付近の細胞は線状で細い。
P.yokohamae................葉先は狭三角形状に尖るが,先端はあまり鋭くない。ほとんど曲らず真っ直ぐ。葉先部は専ら長菱形細胞からなり,先端も針にならない。
なお,平凡社図鑑の図はどちらかといえば P. yokohamae,記載文ははっきり P. tenuirostris なので注意が必要である。また,A. Noguchi 1994 : Illustrated Moss Flora of Japan (p.1097) には,P. yokohamae の素晴しい図がある。‘ 葉の形や,葉身中央部・上部の細胞の形 ’ については間然するところがない。
この「葉先の尖り方」は伝家の宝刀と思うが,少し注意が必要かもしれない。時に P. yokohamae の中に,葉先が細く伸び,かつ明瞭な鎌曲りするものが現れることである。つまり,P. tenuirostris に近づくものがあるということで,両者を同一種と考える見解もあながち無茶とは言えない。ただし,現在の標本では( 3点中の 1点),どちらか迷うほどではなかった。先端の細さや葉身細胞(中央部)の形が明らかに異なる。そして,この標本は乾いた状態も残りの 2点と異なっていた。P. yokohamae の葉は通常‘ 茎にゆるく接する程度で,真っ直ぐ斜上し縮れない ’。ところがこのものは,葉がよれよれに開いてだらしなく開出している。2型があるということか。
今までのところ,生態的には以下のようである。P.tenuirostris の方が多い。
P.tenuirostris 5点 :
山地(湿度が高い) / 腐木 4,樹幹基部 1 / 〔朔〕 4 / 無性芽 0
P.yokohamae 3点 :
市街地(乾き気味) / 樹幹 3 / 〔朔〕 0 / 無性芽 3
【追記】
P.tenuirostris の葉先があまり「細く長い」針状とは言えないこともあることがわかった。更にこの種は,しばしば葉の先端が多少ねじれることにも気付いた。他にも,分枝や翼部にも違いがあるという。今後の課題ができた。
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門を出て 田水あかりや 蛍狩 菰田みどり
身の中の まつ暗がりの 螢狩 河原枇杷男
肩寄せし ひとの名知らず 蛍狩 栗山レイコ