オタルヤバネゴケ C. otaruensis との区別がかなり気になる。検索表によると,本種の茎の径 0.25-0.3mmに対し,オタルヤバネゴケは 0.1-0.2mmでこれは大きな差である。実際に測ってみると,シマヤバネゴケ : ca. 0.25mm(0.3mmに達する),オタルヤバネゴケ : ca. 0.15mm(0.2mm未満)で,紛れる余地がない。よって,検索表を絶対とすれば何も問題はないことになる。
オタルヤバネゴケは多形と言われているが,今回それをつくづく実感した。標本が 5点あったのだが,大きさや葉の付き方・形がそれぞれで皆異なっていた。そうではあっても,本種との間のサイズの違いは一目瞭然,茎の長さ幅とも倍半分という感じがする。児玉(1971)‘近畿地方の苔類’ に「一見Cephaloziaと思えないくらい大形のコケである。」とあるが,「大形」は相対的な表現であって,現実には茎葉体の長さ 10mm,幅 1.5mmくらいのものである。そして,他種は更に小さい。
大きさ以外に気付いたのは,(1) 茎葉の固く丈夫な印象と,(2) 這わずに揃って斜上する傾向だった。葉が重なって横につき,凹んでミゾゴケ(Marsupella)状に見えるが,これはオタルヤバネゴケもそうなることがある。今まで持っていた,「弱々しい小さな葉が離在して,茎にほとんど縦につく」という先入観を訂正しなければならない。
標高 300m,渓側の岩壁で非常に湿度が高く,そばにはエゾヒメヤバネゴケ Hygrobiella laxifolia やヒトスジツボミゴケ Jungernmannia unispiris もあって場所としては申分ない。ただ,基物は「土・湿岩」のはずであるのに,この度は腐木であったのが多少気になる。近くをもっと捜してみる必要がある。
なお,本種をオタルヤバネゴケと同一視する説(Va'na 1988)もあるというが,古木達郎・水谷正美 「日本産タイ類ツノゴケ類チェックリスト,2004」,及び K. Yamada & Z. Iwatsuki 2006 「Catalog of Hepatics of Japan 」 では,別種という見解である。
「大きさ」以外の差を見付けたいものだ。
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見渡して この世美し 麦の秋 菅 敏夫
若き日と 同じ明るさ 麦の秋 鷹羽狩行
麦秋や 野良着かなしき 未亡人 牛山一庭人