保育社図鑑の原色図で名前だけは知っていたが,隠岐にあるとは思っていなかった。今回分布図を見たが,本州では太平洋側に産地が集中しており,裏日本では唯一「島根県松江市枕木山 Z. Iwats & Y. Nishida 」という標本があるのみだった。
滝への進入路で(300m alt.),蛸壺の底のよう地形なので空中湿度はかなり高そう。そばに苔類のシフネルゴケ があることからもそれがうかがえる。大スギの薄暗い根もと,崩れそうな土の斜面に少しだけあった。この滝は‘昭和の名水百選’&‘日本の滝百選’。前回,前々回と都合 3種が「隠岐でここだけ」となった。特別な環境なのかもしれない。
微小ホウオウゴケ類の同定は容易ではないのだが,この種はアッと言う間に終る。ホウオウゴケ属で葉に中肋がないのは本種だけだからである。むしろ最初は,ホウオウゴケ属かどうかが不安だったが,図鑑に「・・・,アヤメの葉のように茎を抱く。このような特徴から本科の種と認識するのは容易である。」と書いてあった。調べてみたら,こんな葉の付き方をするのは他にはエビゴケ Bryoxiphium norvegicum ssp. japonicum しかない。
ルーペで見ても感じられるが,葉は薄くて柔らかく葉身細胞も大きな六角形で,全然ホウオウゴケ属らしくはない。葉縁に現れる舷も他の種のものとははっきり印象が異なる。確かに縁の細胞が突然細長くなって舷のようにはなる。しかし,細くなるのは 1細胞列のみ,ほとんど肥厚もせずおよそ‘舷’らしくは見えない。しかも,有るような無いようなか細いもので,実際消えている部分もあるように思う。この細い条状の縁取りと,大きな薄壁細胞からなる内部との対比は独特のもので忘れ難い。
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ためてゐし 言葉のごとく 百合ひらく 稲垣きくの
笹百合の 一茎一花の 孤愁かな 吉野義子
やや青き 高砂百合の 真白さよ 江坂槇女
確かに!
今後はルーペでも何とかなりそうです。薄くて著しく扁平に見える茎葉,大型細胞の質感。