検索フォーム

丹後の日記

ホウライサワゴケ Philonotis hastata編集する
2009年06月09日19:22全体に公開
3 view
滝壺の付近の湿岩上に点々とあった。感じでサワゴケ属 Philonotis の何かと思ったが,既知のものとは‘葉の形が少し違う’ような気がして持帰った。葉先の細くなり方がゆっくりであまり直線的ではなく(凸曲線),頂端は鈍である。いわゆる長楕円状披針形(oblong-lanceolate)というのであろう。

検索表に従うと,中肋が「葉先より数細胞下で終る」のが本種で,「葉先の直下に達する」のがカマサワゴケ P. falcata ということになっている。確かに,採集品を見ると中肋は2,3細胞下で消え,葉の先端は薄くて鈍形に終る。一方,カマサワゴケの方は突出とは言えないまでも,先端は中肋のみからなっているのが普通である(平らな葉身部分は存在しない)。

これで十分なようだが,カマサワゴケにも中肋が葉頂に届かずに終る型があるようなので困る。かつてオレハサワゴケ P. falcata var. carinata と呼ばれていたものである。しかも,葉身細胞が短くなってパピラも小さく,いよいよ本種に似てくる感じだ。両方とも変異の多い種なんだと思われる。それぞれの種内で,葉身細胞の大きさや形が結構変化するような気がする。ただ,決定的な根拠はないのだが,直感的には両者ははっきり別種に見える。同じ種だとはとても思えない。

以下,本種の特徴をカマサワゴケと比較して列挙する。よく生長したものでは違いが明らかなので,カマサワゴケは小さく若い個体で調べた。しかし,成長したものと大きさ以外の差はあまりなかった。
(1) 葉が小さい。最大でも 1*0.3mm。 ⇔ はるかに大きく縦横 2倍はある感じ。ca. 1.6*0.7mm。
 ・・・ カマサワゴケは新芽でも長さ 1mmを楽に越える。
(2) 葉は葉基部の少し上で一番幅広く,全体がやや楕円状になる。 ⇔ 下部が最も幅広くはっきり三角形に見える。
(3) 葉身細胞は短くて太い矩形。ca. 35*12μ。 ⇔ 狭く細長い。ca. 40*5μ。
 ・・・ 非常に変化するので中央値を採ったつもり。両者の違いは明瞭に感じ取られる。なお,A. Noguchi 1989 の 40*20μは幅が広過ぎると思う。
(4) 葉身細胞腹面のパピラははっきりあるが,小さくて見落しやすい。 ⇔ すこぶる顕著で背面から覗いても分る。×100でも見える。
(5) 葉身細胞の葉緑粒が少なく,細胞が透明でスカスカした感じ。 ⇔ 葉緑粒はぎっしり詰っている。
・・・ これは非常に印象的。
(6) 葉は柔らかい感じで,細胞も薄壁で疎(lax)。 ⇔ やや厚壁で丈夫。ふにゃふにゃした感じはない。
(7) 中肋は細くそこでキールはしない。 ⇔ 中肋は太く強烈。中肋に沿って深い溝状のキールができる。そしてその部分は,平面には広がりにくい。
・・・ 葉が二つに畳まれるわけではない。単に折れ目にクセがつくということ。
(8) 中肋背面の細胞の上端に突起(刺)が出る。 ⇔ ほとんど平滑。突出は目立たない。
・・・ これが最も重要な違いではないかと思った。この突起は明瞭で上部の方ほど顕著。
(9) 葉は茎に列状に並んではつかない。 ⇔ 葉がきれいに畝のように並んでつく。畝は 5条あり,かすかに螺旋状にねじれる。
・・・ これはカマサワゴケの著しい特徴で非常に分り易い。野外ではこれだけで十分。

分布は,東南アジア,オセアニア,欧州まで。マダガスカルやハワイにも。広布種のようだが,平凡社の図鑑に「渓谷沿いの土上や石灰岩の洞窟の中に生えるが稀。」となっている。広島大学の標本データベースを検索したら,日本のものが 2点あった(西表島・石垣島)。他に記録を見付けたところは,大分・岡山・愛媛・三重・神奈川・埼玉・福島の各県。


---------------------------------
 卯の花は 日をもちながら 曇りけり       千代女
 卯の花の こぼるゝ蕗の 広葉哉         蕪村
 まだ宵の 卯の花見えて 蛍飛ぶ       村上ヨ子

コメント

丹後

close
  • 絵文字

利用規約および個人情報保護ページに同意のうえ投稿してください。

日記を書く

友人の最新日記

<2009年06月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    

日記の使用状況

0.8MB/2000.0MB