保育社図鑑のPLATEに絵が出ているのに,こんなコケがあることを全く知らなかった。外観がアカウロコゴケ Nardia sieboldii によく似ていて(生える環境も)間違いやすいと言われるが,実際自分もちゃんと間違えた。しかし,油体が顕著で楕円体の大きいのが 2〜4個ずつあるのですぐに違うと気付く。アカウロコゴケは油体があっても 1個ずつ,しかも半数程度の細胞でしか見られない。なお油体の数は「 2-3個」が標準(代表値)であるが,4個あるものも含まれる。粒が小さくなってもっと数が増える場合もあるので要注意。最初はこんなことにも躓くものである。2-3個となっていると, 4個のが出てきたりしたらいけないかと思ってしまう。
「舌状の小さな腹葉の存在」を確かめれば同定はほぼ終るが(紛らわしい種がない),これが容易ではない。茎の長させいぜい 7,8mmの微細なもので,実体顕微鏡下で「ためつすがめつ」随分時間がかかった。葉は重なって出て円頭〜微凹頭,縁が波打つ傾向がある。やや薄い茶色を帯びるのも特徴の一つであろう。
低山地の道端の崖にあったので,稀なものではないかも知れないが見付けるのは相当難しい。今回は「長く伸びて白く光る花被(ヤバネゴケ科でよく見る紡錘形)」でかろうじて気付いた。それも目に見えたわけではなく,でたらめにつまんでルーペで覗いた結果である。
図鑑に「葉身細胞はほぼ方形でやや柵状に並び,・・・」とある(‘方形’は矩形の意だろう)。そう言われて気付いたが,確かに検鏡したとき何か様子が違うと感じた。ただ,「柵状」がそれほど明瞭なわけではなく,矩形ではない細胞も含まれる。
『日本産苔類図鑑 H.Inoue 1973』 によると,本属は5種を含み他の4種は中南米(2種)とアフリカ(2種)に分布する。しかも本種は中南米のものに極めて近似のものであるという。「他に例をみない特殊な分布」という注記がある。タイプは日本で低地から高山まで分布しているようである。同書の分布図では日本以外のマークはない。
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犬ふぐり はや瑠璃なして 風の径(みち) 萩本厶弓
野をゆけば 手のつめたけれ 犬ふぐり 飯田京畔
犬ふぐり 同じ丈(たけ)にて 咲き揃ふ 平木菽水