やはりコモチイトゴケ属 Pylaisiadelpha の関連で,ヤマトキヌタゴケ Homomallium japonico-adnatum と同定した標本( 1点しかない)を見ていておかしいと思った。葉の形が近似種のエゾキヌタゴケ H. connexum と違いすぎる。図鑑ですぐその後に続く属をみて,これではないだろうかと考えてみた。Homomallium と別属にはなっているが極めて近いものらしく,決定的な違いがはっきりしない。とりあえず,以下の理由により本種であるとしておく。
(1) 葉は乾くと枝に接し,枝は円い棒(針金)のように見える。
(2) 葉は卵形で(±1.00×0.45mm),決して長くはない。
(3) 葉先は漸尖はせず,やや急に短く尖る。そしてしばしば多少左右に曲がる。
(4) 通常,葉先に細胞の突出による粗い鋸歯が出る。
(5) 中肋はごく短いのがあるような気もするがほとんど見えない。
(6) 翼部が広く,縁に沿う小さな細胞は軽く 30個を越えることがしばしば。
多分これで間違いはないと思うのだが,気になるのはこのコケが「城などの古い石垣」を好み,実際の採集例も圧倒的にそのような場所が多いことである。都会地の公園でもよく見られるという。今回本品を採集したのは,渓流沿いの林道の舗装面。かなり湿り気のある場所でそばにはヒモヒツジゴケ Brachythecium helminthocladum が沢山あった。
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春浅き 木立の上の 空のいろ 柴田白葉女
山も木も 素描のときや 春浅し 木内怜子
早春や 室内楽に 枯木なほ 石田波郷