誤ってコモチイトゴケ属 Pylaisiadelpha にしていた標本。Pylaisiadelpha の翼部とは以下の点で異なる。
(1) 細胞はとても「方形」とは言えず,大きさ形とも不規則。「薄壁」でもなく,細胞壁が不等に肥厚する。
(2) しばしば横に長い細胞が混じる。特に葉縁に沿って。
(3) 暗緑色でうす暗く不透明。透明細胞はほとんどない。
(4) 葉縁に沿って 10数個の細胞が並び,翼部がより広い。
前回「多分キヌタゴケ属 Homomallium であろう」と書いたがそれも違っていた。確かに翼部の感じは似ているが,例えば「葉が中肋を欠く」ので否定できる。
母種のハイヒバゴケ var. cupressiforme は今まで 7ヶ所で見ているが,それらとは明らかに印象が異なる(現に他の種と同定!)。集落内の小さな神社の境内,狛犬の横腹に生えていた。肌をぴったり被う長く揃った立派な「毛並み」で,苦笑させられる。母種との区別点は次のようになっている(1994 H.Ando)。
“ 葉を着けた茎や枝は細く糸状で,疎生する枝は茎に平行して伸びる傾向がある。葉は,ハイヒバゴケ (var. cupressiforme)に比べて小さく,狭い長だ円状皮針形で,まっ直ぐか,わずかに曲がる。葉細胞は母種のハイヒバゴケとほとんど変わらないが,翼部の方形細胞は少なく,葉縁にそって 5-13(-15)個位である。 ”
この中で「枝は茎に平行して伸びる」という特徴が一番分かり易い。「茎から枝が分岐」という感じではなく,糸状の長い枝が一方向に揃って伸びる(束状になって流れる)。標本のものも砂岩の垂直面に「垂れる」ように貼り付いていた。
母種の中にも,茎や枝の先端部が糸状になる,部分的なイトハイヒバゴケ型があるようなので気をつける必要がある。また,本変種は乾いた垂直面での生態型ではないかとの意見も根強い。確かめる必要がある。
---------------------------------
犬ふぐり 大地かがやき そめにけり 加藤三七子
うすうすと 置く日をとらへ 犬ふぐり 稲畑汀子
犬ふぐり 路傍に咲きて 踏まれけり 杉浦舟山