これはコモチイトゴケ P. tenuirostris と同じもの(シノニム)のはずであるが,最近は別種とする見解もあるようだ。服部植物研究所報告 1999,Tan & Jia : A Preliminary Revision of Chinese Sematophyllaceae 。
今回採集したのを含めて 5つの標本があったのでもう一度見直してみた。取りあえずの結論は以下のようだが,標本の数が少なくて確実なことは分からない。間違っていても責任は取れない。
P. tenuirostris 2点 : 山地の湿った場所,樹幹と腐木。無性芽なし。腐木上のは胞子体あり。
P. yokohamae 2点 : 道端の樹幹及び泉水の岩上。いずれも無性芽があって胞子体なし。
残りの 1点は同定の間違いで,多分キヌタゴケ属 Homomallium であろう。
前記論文の検索表では次のようになっている。
P. tenuirostris : ハイゴケ属に似ていて,葉は強く鎌曲がりする。葉身細胞は oblong-linear,無性芽は稀。
P. yokohamae : ハイゴケ的ではなく,葉は斜開する(erect-patent)。葉身細胞は oblong to short vermiculate。無性芽は多い。胞子体をあまりつけない(中国では)。
無性芽の有無は決め手にはならないし,葉の曲がり方も結構変化がある。かろうじて認識できたのが,葉身細胞の形と大きさの違いだった。
P. tenuirostris : 細く長くはっきり線形に見える。両端は鋭く尖る。50-70*3-4μ。
P. yokohamae : あまり長い感じはせず,中央部の幅が広くてふくらむ。両端が鈍く円みがある。30-60*4-5μ。
この違いを伝えるのは顕微鏡写真がないと難しい。一番よいのは両方を採集して比較することであろう。
今までコモチイトゴケは市街地でもごく普通な種として知られていた。これが多分ケカガミゴケ P. yokohamae なのであろう。今までに標本が 2点というのは少なすぎるが,見落としているかあるいは本当に少ないのか。「大気汚染に強い都会での普通種が,隠岐(田舎)では少ない」例は他にもある。
今回採集したのが狭義の P. tenuirostris (新コモチイトゴケ)だったわけで,林道の腐木を被っていた。胞子体で全体が茶色に煙って見え,ノミハニワゴケ Haplocladium angustifolium と思って一旦は通り過ぎた。〔朔〕が直立?的な印象が残って引き返したのが好判断。
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紅梅の 人目はばかる ごとき色 鷹羽狩行
紅梅や ゆつくりと もの 言ふはよき 山本洋子
天気が悪いので自宅周辺(せいぜい数 km)ばかりを歩いています。色々発見はあるんですが,さすがに未知の種にはもう出会いません。
昨年は未知の種を新たに 60種見付けました。今年は 30くらいかと思っています。
新発見したときの喜びは癖になりますね〜