胞子体がないので（日本では未知）科のチェックができない。たとえ種の判断に役立たない時でもやはり胞子体はあった方がいい。しかし，細かな形質が一致するので間違いはないであろう。キンシゴケ科を仮定して，“Matsui, T. 1990. A taxonomic revision of the family Ditrichaceae (Musci) of Japan, Korea and Taiwan” を使用した。
以前，キンチャクゴケ Astomiopsis julacea としたものだが，「いくら何でも」という気はしていた。D. lineare なる種は，保育社の図鑑に無く，野口先生の“MOSS FLORA OF JAPAN” にも出て来ない。平凡社の図鑑では検索表の 1行のみ。他に持って行きようがなかったように記憶している。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=686980731&owner_id=2651499
採集地点を 1年間にわたって 5回見に行ったが，ちっとも大きくならず〔朔〕もつけないので，これが本来の姿だと思う。ちょうど前記論文が出て来たので 1種ずつ図版と比較してみた。‘葉が楕円状披針形で中肋の突出もわずか’ということから，他の属の可能性は上記 A. julacea に限られる。確かにこの種には酷似しているが，(1) 葉縁の細胞が時々 2細胞層になる，(2) 葉縁の細胞が内部より長くはならずむしろ短い，(3) 葉基部の細胞が整った長い矩形，などの点で排除できる。
Ditrichum の検索表に「葉縁が反曲か平坦か」の分岐があるが，ここは非常に間違えやすい（他は問題なし）。採集品では，実体顕微鏡でも全く反曲に気付かず，むしろ先端部が内曲して溝状（Cucullate・僧帽・ボートの舳先）になる点が目立った。反曲していることは，切片を大量に作ってみてやっと分かった（葉をつけたままの茎を大根のようにザクザク切ればよい）。反曲といっても狭くかすかなもので，あったりなかったり，場所も不定である。欧米の図鑑にもわざわざそのように書いてある。更に，葉縁（外側の1列のみ）が 2細胞層になることが重要な特徴であるが，これも「常に」ではない。そうなっている切片（葉身上部）を捜す必要がある。同属で葉形が似たものに唯一アツサヤキンシゴケ D. zonatum があるが，これは葉身全体がほぼ 2細胞層であるので無視できる。
仮根にできるという塊茎（Tuber）を確認できなかったのが唯一心残りである。ただこれは日本(T.Matsui et al. 1985）とベルギーからだけの報告のようで，あまり普通なことではなさそうだ。今は気にしないことにする。
今回の採集は 10年ほど前にできた水路沿いの農道で，前回同様に土の裸出した場所である。北米と英国の図鑑によると，まさにそのような場所のパイオニアだそうである。日本では標本も少なくあまり知られていないように思われるが，単なる見落としではないだろうか。その気で捜せばいくらでもありそうな気がする。
事実，自家の水田のそばにもあったのに今まで気付かなかった。しかし気をつけて見れば目視でも紛らわしいものはない。高さ数ミリの短く太い棒状の茎が密に直立，葉は中肋がよく目立ち‘固そうな印象’を与える。茎を抱くように（ややキール状）ぴったり貼り付いた葉は，湿ってもほとんど開かない。
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つつましき 冬のはじめや 竜の髯（ひげ） 和田祥子
初冬や 青く鋭き 柚子（ゆず）の棘 大井雅人
無花果の 黝（くろ）ずみ残る 冬はじめ 大畠政子
茎の高さは2-7mmで，葉は分厚く・固く・真っ直ぐ・乾湿で変化せず，です。他の特徴については，2つの日記にある通りです。
論文の該当部分（記載・図）をPDFで送れればいいんですが，私はスキャナーを持ってないんです。図書館に“服部植物研究所報告”はありませんか。
イトキンシゴケで間違いないそうです。勘が当たって良かったです。
なお、茨城県でも胞子体付きのを樋口先生が採集していたとの事で、おそらく胞子体付きは2例目です。
どんな環境にあったか知りたいです。量も。採集地は何県ですか？
量：配偶体はそこら辺一面。胞子体付きのは一角だけ。
こんな感じです。
しかしこうした環境だからといって生えているわけではありません。
この場所はやはり特殊な場所だと思います。なぜかナガヒツジゴケやハイゴケといった普通種がほとんどありません。ケヘチマゴケが珍しく胞子体をつけ、ヒメスギゴケの葉が（直射日光は少ないはずなのに）白っぽくなっています。アカウロコゴケ（この辺りでは比較的まれ）が群生しています。さらに奥には、例の「大きなゼニゴケ」が生えています。
個人的な感覚では、イトキンシゴケは人工的な環境にしか生えず、しかも稀なのだと思います。おそらくヘラハネジレゴケの仲間もこれと同類だと思っています。いくらコンクリートや岩を探し回ってもハマキゴケやチヂレゴケばかりで、南大沢周辺はおそらく生えていないでしょう。
隠岐は緯度的には東京と同じなんですが，地域による差を感じます。イトキンシゴケは3ヶ所で見ましたが，水田の土手を捜せばまだまだありそうな感じです。ヘラハネジレゴケは隠岐では人家付近で最も多いコケで，100ｍも歩けば2,3回は出会います。どこの家庭にも1ヶ所はありそうです（笑）。逆にハマキゴケはそう多くはなく，“捜す”必要があります。
日照時間・・・特に日陰でもないし日向でもありません。私もよく分かりません。
ハマキゴケが少ないのは意外です。南大沢では乾いた場所から小川沿いの湿った岩の上まで幅広い水分条件に適応しています。
緯度だけではなく、気候（気温の上下、平均、降雪量・降水量）はどうなっているのでしょう。
調べたことはないのですが大差ないと思います。ただ，海に囲まれている関係で夏は涼しく冬は比較的暖かいかも知れません（対馬暖流）。少なくとも東京のような空っ風は吹きません。東京の夏はかなりのものでしたが（住んでだ頃はエアコンなし），これは都会と田舎の違いが大きいでしょう。
高等植物では，隠岐が北限自生地のものは数多いのですが，コケはその辺鈍感なような気がします。直接影響があるのは微環境・微気象で，空中湿度の程度が一番大事そうです。
南大沢は年間平均湿度が80%、最低湿度は20%です。
> 葉の輪郭だけでは僕の標本はlineareよりはむしろ他の2種に近いですね・・・
葉の尖り方（上半部の曲線）でしょうか。
結局葉身上部で，�〕娜錣糧振福き�溝状にくぼむ，�Ｍ娜錣�2細胞層，をチェックするしかなさそうです。切片を沢山作って。