今までに知っているクシノハゴケ属 Ctenidium とは大分感じが違う。一瞬ヤノネゴケ属 Bryhnia ではないかと思ったが,中肋が 2本なので違う。また,葉の一部にくしゃくしゃの横皺が見られたのでラッコゴケ属 Gollania も気になった。葉の尖り方や鋸歯の感じも似ている。しかし,Gollania は葉の最下部で最大幅ということはないし,尖り方ももっと緩やか(凸曲線)でくふっくらしている。何よりも「帽に毛が出る」ことはない。
葉の全周の鋸歯が明瞭,三角形状の葉身で基部が丸く曲がり込んでいる形から Ctenidium と決めた。帽の毛の様子がそっくりなので間違いないであろう。本種とした根拠は以下の 4点である。
(1) 葉先が徐々に狭くなりくさび形に尖る。急に細くなって毛状に尖る,ことはない。
(2) 葉の先が鎌形に曲がることはほとんどない。
(3) 葉身細胞(2/3の位置)の幅は 5μ。
(4) 葉身細胞上隅が光る。尖ったパピラも見え‘非常に’目立つ。
ノコギリクシノハゴケ C. serratifolium の可能性が少しだけ残っている。「葉がやや平たくつく」という様子も確認できない。納得するのにはもう少し観察が必要だ。
採集した場所はいつもコケを見ながら歩いている道。気付くのに 4年間かかったことになる。「同定」より「採集」の方が難しいのではないかと思った。
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桜黄葉 ほろびのひかり 道に充(み)つ 大野林火
黄葉降る 樹の哀しみの ごとく降る 福永耕二
黄葉大樹 そは歓喜とも 悲哀とも 永野孫柳