【 Tenny(テニー) 一眼レフ・ファインダー前提知識 : ケプラー望遠鏡型ファインダー 】


 ケプラー望遠鏡型ファインダーは、ピントグラスに投影される撮影像をもとにコンデンサーレンズとリレーレンズを使って実像を作り出し、 その実像を接眼レンズから拡大して見る光学系のファインダーです。

 左側の図はケプラー望遠鏡型ファインダーの最も単純な方式による ハッセルブラッドH1 のファインダーの実装概念図、 右側の図はミラーを3回の反射を行うプリズムに変更してファインダーの小型化を図った ペンタックス645 による実装の概念図です。
 例えば、左側の図では、撮影レンズによって上下左右に逆転された ( 180度の回転を掛けられた ) 撮影像がふたつのミラーで反射された後、 リレーレンズによる結像によって再度180度の回転をおこし、結果的に接眼レンズから正立正像のファインダー像が覗かれることを示しています。



【 Tenny(テニー) 一眼レフ・ファインダー光学系の概念 】


 Tenny(テニー) の一眼レフ・ファインダー光学系は、 上記の ケプラー望遠鏡型ファインダー と、小さな物体を拡大して見る 顕微鏡 の原理を利用しています。
 すなわち、左側の図に示されるように、一旦撮影像からリレーレンズで微小な二次実像を作成し、その二次実像を基に対物レンズによって拡大した三次実像を接眼レンズで覗くという方法です。



 一眼レフのファインダーでは一眼レフのシンボルともいえるペンタプリズムを介して、ピントグラスに映された実像を接眼レンズから覗く方法が一般的です。
 カメラのファインダーに限らず、望遠鏡や、顕微鏡など、一般に接眼レンズを利用して拡大像を見る光学系では接眼レンズの近くに、 ある程度の大きさを持った実像が必要となります。
 しかし、狭小な空間に沿って長く複雑な光路を取らざるを得ない Tenny(テニー) では、 今までに知られている方法によって目的にかなう実像を作り出すことはできません。

 この課題を解決する方法のひとつが上記に示したケプラー望遠鏡型ファインダーと顕微鏡の組み合わせ、 さらに右側に示すようなミラーによる反射を利用したファインダー光学系です。



【 Tenny(テニー) 一眼レフ・ファインダーの実装 】


 左側の図は上記の 一眼レフ・ファインダー光学系の概念 に基づいて実装される Tenny(テニー) のファインダーを前方左上方から俯瞰したもので、撮影像を 『』 という文字とした場合(裏文字は 『q』)に、文字方向を 『b』、 『p』 などに変えながら撮影レンズ(図では省略)、コンデンサーレンズ(図では省略)、 リレーレンズ、対物レンズ、接眼レンズを順番に通過して、撮影像と同じ 『』 という文字をファインダーに映し出す様子を示しています。
 なお、レンズによって実像が作成されるたびに画像は180度の回転を起こしますが、 撮影レンズ以降の Tenny(テニー) による光学系では実像が二回作成されるため、 ファインダー内部では回転は起こらないものとして図示されています。


 一方、三角形を折り畳んで作られた右側の図は、プリズムの設計方法を示すものです。
 ここに示したふたつの図形は底辺と高さの比率を1:2.9とする同一の三角形によるものですが、折り曲げる位置と方向を変えることで、 大きさと形の異なるプリズムを設計することが出来ます。


 下に示すプリズムの実装例は、このようなふたつのプリズムによってプロポーションの異なったカメラが作成されること、 また、右側の場合には製造の容易な小型の硝材ブロックによってプリズムが構成できることを示しています。


【 コーヒー・ブレイク : Tenny(テニー) の大きさ 】


 ここで、ファインダー光学系の発展性を象徴する 『 デュアル・ファインダー 』 の説明に進む前に Tenny(テニー) をディジタル・カメラへ応用した場合(フィルム格納部を取り除いた場合) の35mmフルサイズ・カメラとの大きさの比較を示します。
 また、この図から、Tenny(テニー) の光学系を 35mmフォーマットへ適用した場合には、かなり小型の一眼レフが作成されることが推測されます。




【 新たな可能性 : レンジ・ファインダー 】


 ファインダーによって撮影像の焦点を合わせる方法には、これまでに説明した 一眼レフ方式 以外にも二重像の合致によって焦点を合わせる レンジ・ファインダー方式 があります。

 レンジ・ファインダーは、ファインダー光学系と撮影光学系とが異なるために、 (1) 近距離撮影におけるファインダー像と撮影像に視差がある、(2) 望遠系の長焦点レンズが使えない、(3) 近接撮影ができない、 など、幾つかの欠点はあるものの、 (1) ファインダー光学系を小型化できる、(2) 撮影レンズの焦点距離や明るさに依らず、パン・フォーカスの明るいファインダー像が得られる、 また、クイック・リターン・ミラーを持たないために、 (3) 明るい短焦点レンズの著しい小型化が可能である、(4) 静寂性に優れる、 (5) シャッター・リリースとシャッター始動のタイム・ラグが小さい、(6) シャッター・リリース時のブラック・アウトがない、など、 一眼レフにはない利点があります。

 これらのレンジ・ファインダーの利点の中でフィルム・フォーマットの大きさに従って重要性を増すものに 小型の短焦点レンズ : (3) があります。 レンズ自体の重量の抑制に加え、カメラの全長を短縮することで、カメラの操作性と機動性を大幅に向上させることができるからです。

 下のふたつの図は645のおよそ1.7倍の露光面積を持つ67フォーマットの一眼レフとレンジ・ファインダー・カメラを示したものですが、 左側のレンズを取り外した一眼レフの全長は、右側の43mmの超広角(短焦点)レンズを付けたレンジ・ファインダー・カメラの全長とほとんど同じであることが分かります。



 この図からレンズを含めたカメラの全長は一眼レフのほうが長くなることは明らかですが、さらに、 一眼レフの場合にはレンズと露光面の間に置かれた可動ミラーを設置する空間に関する 『レンズは短焦点になるほど大型化する』 という光学的原則によって、 容積と重量の差はいっそう顕著なものとなります。

 また、レンズの小型化に加え、さらに、レンジ・ファインダーの場合には、レンズと露光面が近接しているという利点を活して、 光学特性上理想的な性能を備えたレンズの設計までをも可能とします。


【 補完しあうふたつの個性 : デュアル・ファインダー 】


 一眼レフでありながら、レンジ・ファインダー機能を備えたカメラ 例えばレンズが外されている時には本体はミラー・アップ状態にあり、 マウントするレンズの種類によってどちらかのモードに自動設定されるようなカメラ があれば、撮影対象に応じてそれぞれの特徴を生かした写真撮影が可能となります。

 『 デュアル・ファインダー 』 は、まさにそのようなカメラを実現するために、 Tenny(テニー) の 一眼レフ・ファインダー光学系の後半部分にレンジ・ファインダー光学系を組込むことで創り出されました。

 先の プリズムの実装例 は、コンデンサーレンズの光軸をもつ平面層の光路を示したものですが、 Tenny(テニー) はその上部に、下図に示す 『接眼レンズ光軸の平面層』 の光路を持っています。
 右の 『可動ミラーへの変更』 は左図における二個目のプリズムを可動ミラーに変更したものですが、 この可動ミラーを光路スイッチとすることで、ふたつの機能を持つファインダーを実現することができます。

『 接眼レンズ光軸の平面層 』 『 可動ミラーへの変更 』


 下のふたつの図は上の 『可動ミラーへの変更』 に、レンジ・ファインダー方式に必要なペンタゴナル・ダハ・プリズム等を組み込んだもので、 ふたつのファインダー方式が可動ミラーの切り替えによって実現される状況を示しています。

『 一眼レフ光学系 』 『 レンジ・ファインダー 光学系 』

 左側の 『一眼レフ光学系』 は機能的には 『可動ミラーへの変更』 と同じ、すなわち画像のボケ具合によって焦点合わせを行いますが、右側の 『レンジ・ファインダー光学系』 の場合には、 可動ミラーの前面にある凹レンズによって作成される虚像と、測距窓から取り込んだ二重合致用の実像の重なり具合から焦点合わせを行います。

 Tenny(テニー) はこのような 『 デュアル・ファインダー 』 をはじめ、 ファインダー画像に撮影情報を透視表示する 『 オーバーラップ表示機能 』 や、 指定された合焦点をフレーミングを変えても合焦枠とともに追跡する 『 合焦物体指定&自動追尾機能 』、 また、ディジタル・カメラにおける 『 変倍ファインダー機能 』 や 『 電子ファインダー兼用機能 』 など、 今までの光学ファインダーの概念を一新する究極のファインダー機能によって次世代の創像装置として新たな写真世界を拓きます。

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